筋肉痛がないと筋トレは効果がない?の誤解


なぜ「筋肉痛=効果」と思われるのか?


  • 初めての運動や久しぶりのトレーニングで筋肉痛が出やすい

  • SNSやメディアで「筋肉痛=効いた証拠」という表現が広く使われている

  • 筋繊維損傷が筋肉成長の全てだと思われがち

 

確かに、筋肉痛の原因は筋繊維の微細損傷や炎症反応であり【3】、
これが回復する過程で筋肉が強くなる側面はあります。
しかし、それだけが成長のメカニズムではありません。


科学的に見る筋肉痛の正体


筋肉痛(遅発性筋肉痛:DOMS)は、**特に慣れない動作や伸張性収縮(エキセントリック動作)**で起きやすい現象です【3】。

  • 原因:筋繊維や結合組織の微細損傷、炎症、代謝産物の影響

  • 発症時期:運動後12〜24時間で出現し、48〜72時間でピーク

  • 神経適応:同じ動作を繰り返すことで、神経系が動きを効率化し、同じ負荷では筋肉痛が出にくくなる【4】

 

つまり、筋肉痛がなくても、筋肉が適応し成長している可能性は十分にあります

 



筋肉痛がなくても効果が出る理由


  • 神経系の適応により、同じ動作で筋肉痛が起きにくくなる

  • 筋肥大は筋損傷だけでなく、機械的張力代謝ストレスでも促進される【5】

  • アスリートや上級者は、筋肉痛をほとんど感じずにパフォーマンスを伸ばしている例が多数

 

つまり、「筋肉痛がある=良いトレーニング」とは限らず、
「筋肉痛がない=効果がない」わけでもありません。


効果を判断するための指標


筋トレ効果を判断するには、以下のような客観的な指標を見ることが重要です。

  • 扱える重量や回数が増えている

  • 可動域やフォームが改善している

  • 体組成(筋肉量・体脂肪率)が変化している

  • 日常生活での動作が楽になっている

 

これらは、アメリカスポーツ医学会(ACSM)のガイドラインでも、効果測定の主要項目として挙げられています【1】。


結論:筋肉痛は効果の証拠ではありません


「筋肉痛がないと筋トレの意味がない」と感じている方は少なくありません。
しかし、筋肉痛はトレーニング効果の必須条件ではなく、効果を測る指標にもなりません

 

筋肉痛は一時的な生理的反応であり、筋力や筋肥大の成果は、筋肉痛がなくても十分に得られることが研究で示されています【1】【2】。



パーソナルトレーニングE.Sとしての見解


パーソナルトレーニングE.Sでも、初心者の方は特に「筋肉痛がないと不安」とおっしゃることがあります。
しかし、ジムとしては**「数字と動作の変化」を重視**しています。

  • 無理に筋肉痛を狙うトレーニングは、回復を遅らせたりケガのリスクを高める可能性がある

  • 効果は“成長の継続”で判断するべきで、痛みはあくまで一つの反応にすぎない

 

そのため、会員の方にも「筋肉痛はどんどんなりにくくなるので、あくまで副産物」とお伝えしています。
筋肉痛になった方がやった感があって良いという方には、筋肉痛を狙うトレーニングももちろん提供しています。(笑)

参考文献


 

  1. アメリカスポーツ医学会(ACSM)/2021年発行
     運動処方と安全なトレーニングガイドラインをまとめた、世界的に使われている基準書。筋トレ効果の測定指標についても詳細に記載。
     [原題]American College of Sports Medicine. ACSM's Guidelines for Exercise Testing and Prescription, 11th ed. 2021.

  2. ブラッド・ショーンフェルド博士(アメリカ・レーマンカレッジ)/2010年発表
     筋肥大のメカニズム(筋損傷・機械的張力・代謝ストレス)を体系的に整理した代表的な論文。
     [原題]Schoenfeld BJ. “The mechanisms of muscle hypertrophy and their application to resistance training.” J Strength Cond Res. 2010.

  3. 香港大学ケビン・チャンら/2003年発表
     遅発性筋肉痛(DOMS)の原因や回復方法、パフォーマンスへの影響を総合的にレビューした論文。
     [原題]Cheung K, et al. “Delayed onset muscle soreness: treatment strategies and performance factors.” Sports Med. 2003.

  4. オーストラリア・メルボルン大学プロスク&モーガンら/2001年発表
     エキセントリック運動による筋損傷の仕組みと、神経系の適応による筋肉痛軽減のメカニズムを解説。
     [原題]Proske U, Morgan DL. “Muscle damage from eccentric exercise: mechanism, mechanical signs, adaptation and clinical applications.” J Physiol. 2001.

  5. ブラッド・ショーンフェルド博士/2013年発表
     代謝ストレスが筋肥大を促進する可能性について整理し、トレーニング設計への応用を提案した論文。
     [原題]Schoenfeld BJ. “Potential mechanisms for a role of metabolic stress in hypertrophic adaptations to resistance training.” Sports Med. 2013.