· 

「代謝を上げると老化が進む」は本当?


はじめに


先日SNSで「代謝を上げると老化が早まる」といった投稿を見かけました。
実際のところこれは科学的に正しいのでしょうか?

 

投稿を見て、個人的に調べてみたくなったので、今回は、信頼できる論文や研究結果をもとに、「代謝と老化」の関係を中立的に検証してみました。


代謝と老化の関係はシンプルではない


結論から言うと、「代謝が上がる=老化が早まる」という単純な因果関係を示す証拠はありません

むしろ、自然な生活習慣の中で少しずつ代謝が高くなることは、健康や老化予防に良い影響を与えるという見解が主流です。

 

ただし、このテーマが誤解されやすいのは、過去に一部の仮説や動物実験で「代謝と寿命」の関連が示唆されてきたからです。



「代謝が高いと老化が進む」説の出どころ


● 「生命速度説(Rate of Living Theory)」

1920年代に提唱された仮説で、「代謝が速いほど寿命が短くなる」とするものです。

しかしこれは、現在では広く否定されています。

 

🔗 Speakman JR. (2005)

Body size, energy metabolism and lifespan

Journal of Experimental Biology

https://doi.org/10.1242/jeb.01661

 

この論文では、哺乳類・鳥類などのデータを分析し、「代謝の高さと寿命の関係は一貫性がなく、代謝が高い動物でも長生きする例がある」と結論づけています。

 


活性酸素と老化の関係は?


もう一つ、代謝と老化の関連として語られやすいのが「活性酸素(ROS)」の存在です。

 

代謝が上がると、ミトコンドリアから**活性酸素(ROS: Reactive Oxygen Species)**が生成され、これが細胞を傷つけて老化を早めるという説があります。

 

しかし、こちらも誤解が多くあります。最新の研究では、ROSが必ずしも悪者ではなく、**適度な量のROSは細胞に良い影響を与える(ホルミシス効果)**こともわかってきています。

 

🔗 López-Otín C. et al. (2013)

The Hallmarks of Aging

Cell, 153(6): 1194–1217

https://doi.org/10.1016/j.cell.2013.05.039

 

この論文では、老化のメカニズムに「ミトコンドリア機能の低下」や「酸化ストレスの増加」などが含まれる一方で、運動などによってミトコンドリアの機能が改善されることも示されています。


少しずつ代謝を上げることはむしろ健康的


ここで重要なのが、「代謝をどうやって上げたか」です。

 

食事、運動、筋肉量の増加といった自然で段階的な代謝向上は、むしろ健康に良いとされています。

 

🔗 Robinson MM et al. (2017)

Enhanced protein translation underlies improved metabolic and physical adaptations to different exercise training modes in young and old humans

Cell Metabolism

https://doi.org/10.1016/j.cmet.2017.02.009

 

この研究では、定期的な運動によって代謝機能が改善し、加齢による筋力低下を防ぐ効果が確認されました。

 

つまり、

 

「一気に代謝を上げる」ことはリスクを伴う可能性がありますが、

「生活習慣の中で自然に育てていった結果、代謝が高い」という状態はむしろ健康的です。



避けるべき代謝の上げ方


注意すべきなのは以下のような「急激で不自然な代謝の上げ方」です。

 

・サプリ・薬剤での促進

甲状腺刺激剤、エフェドリンなど 心拍数異常、酸化ストレス増加

 

・オーバートレーニング(過剰な運動)

回復不足で慢性疲労やホルモンの乱れ・免疫低下


まとめ|代謝は「急上げ」より「育てる」もの


「代謝を上げると老化が進む」という主張には、現時点で信頼できる根拠はありませんでした。

一方で、自然な運動習慣や筋肉量の増加によって少しずつ代謝が高くなることは、老化を防ぐ可能性が高いというのが、現在の科学的な見解です。


ジムとしての見解


E.Sとしての考えとしては、代謝に限らず何事も「一気に」「急激に」何かを変化させようとすると、続かなかったり、身体に悪影響が出たりすることがあるのでおすすめはしません。

 

食事もトレーニングも、今の自分にほんのちょっと変化を加えてあげる。

それが習慣になってきたら、またほんのちょっと変化を加える。そ

の繰り返しが健康的かつ、長続きする秘訣だと思っています。

参考文献


1. Speakman JR. (2005)

論文名:Body size, energy metabolism and lifespan

ジャーナル:Journal of Experimental Biology(JEB)

発表機関:イギリスのケンブリッジ大学出版系の学術雑誌(The Company of Biologists)

 

 

2. López-Otín C. et al. (2013)

論文名:The Hallmarks of Aging

ジャーナル:Cell

発表機関:Cell Press(アメリカの権威ある生命科学出版社)

 

 

3. Robinson MM et al. (2017)

論文名:Enhanced protein translation underlies improved metabolic and physical adaptations...

ジャーナル:Cell Metabolism

発表機関:Cell Press(Cellの姉妹誌)